at the square. 「あら?もう雪の時間だわ」 「うそ!?ホントだ!!ね、フレイ、外に出てみようよ」 「いやよ!何考えてんのよ!正気!?寒すぎて死んじゃうわよ!!」 「えー!?うーん・・・じゃぁミーア、外で待ってるから!」 両手に紙袋を持ったまま広場に向けて走り出した友達を見て、ため息をつく。 信じられないわ。こんな雪の時間に、外に出ようなんて。 ミーアとフレイは、学校帰りに2人で買い物をしていた。長かったテスト期間が、今日やっと終わった。これで当分は、何かに追われることはない。 ベルベット生地のトップをあて、鏡に映った自分を吟味する。うーん、これもイマイチ。 この買い物は、実を言うとミーアに誘われたものなのだ。テストが終わったら、2人で買い物に行こう。テストの疲れを発散しようよ、と。フレイは別に予定もなかったのでその誘いにのったまで、というわけだ。 フレイとしてはテストも、勉強自体も嫌いなわけではなかった。ただ、テスト期間のあの、何かに追われているような感覚が好きではないのだ。何事にも余裕を持って望むのが板についているフレイは、しかし元から備えておかないくせに、とたんにあせりだす人間の頭には理解を示せないでいた。他ならぬミーアに対しても、始めはそうだった。 ミーアはフレイの言うところの、典型的な「元から備えておかないくせに、とたんにあせりだす」人間だった。だが、フレイはそれでも、ミーアは嫌いではなかった。ミーアに対しては、なぜかそういう人間もいるのだな、と思えるのだ。それも、軽蔑を含んだ感情ではなく、ただ、そういう性格なのだと。そして、ミーアに向けるその感情は、自分にとって意外と心地よいものなのだと気づいたのは、・・・・ごく最近だ。 まったく、しょうがないわね。 フレイはメインストリートに面しているその店を出た。カランカラン、とドアに備え付けのベルが歌う音を感じながら、ちらつく雪の中のミーアを探した。 フレイの視線の先のミーアは、広場の中心にいた。正確に言えば、広場の中心の、ある人物の立像の前に。ちらつく雪と灰色の像を背景に、その桃色の髪が普段よりも一層美しく見える。 「あんた、何してんの?」 「うん・・・ちょっと、これ見てるの」 そういうミーアは、しかし顔をこちらに向けない。ずっと、彼女の目の前にあるモニュメントを見上げたままだ。ミーアと同じく、モニュメントの前にいた少女と少年が、駆け寄ったフレイと入れ替わりに去っていく。すれ違いざまに見た2人の表情は、とても幸せそうだった。つられて、フレイも顔がほころぶ。と、 「ね、フレイ」 不意にミーアがつぶやいた。 「何?」 「なんだかね、ミーア、・・・この人知ってるような気がする」 「当たり前でしょ。あたしだって・・・っていうか、プラント市民なら誰だって知ってるわよ」 「うん・・。わかってるんだけど・・・。この前の話、覚えてる?」 そこではじめて、ミーアはフレイの顔を見た。ミーアの顔は、いつもと違って、・・・なぜか切ない顔だった。 「この前?」 「うん。あの、夢の話」 「・・・ああ。いつもあんたが泣いてるっていう夢のこと?」 「うん。いつも泣きながら、誰かを見上げてるって。その誰かに向かって、必死に手を伸ばそうとするんだけど、届かないの」 そこまで話を聞いて、フレイは「まさか・・・その男?これが!?」といって、2人の横に立っている立像を見上げる。 「ううん。そこまではっきりは、しないんだけど・・・。なんか、この人かっこいいよね」 その一声で、フレイはがっくりと肩を落とした。 「なんなのよ、あんたは!?夢の男じゃないの!?」 「うん。夢の人ははっきりしないけど、夢の人が、こんな人ならいいなぁって」 「確かに、この・・・・あー名前忘れたちゃった。この立像のモデルになった人は美形よね」 「フレイもそう思う?」 「思うけど・・・でも、これくらいの顔なら学校にいるんじゃないの?」 「え!?誰誰っ??」 「なんなのよ!あんたはもう!!今の今まで“夢の男のひとが〜”とかなんとか言ってたくせに」 「だって!夢の中ではその男の人の顔覚えてるけど、目が覚めたらすっかり忘れてるんだもん!!」 「あーはいはい。あんたの記憶力じゃ無理でしょうね」 「どーせミーアはバカだもん。フレイは頭がいいからわかんないんだよっ」 「そうかもしれないわね」 「あー!!自分で認めた!可愛くないっ!」 「うるさいわねっもう!」 と、2人はお互いの顔を見ていった。 「「さむっ!」」 雪の時間は、比較的温度が下がる。12月のディセンベルは、本当に寒い。 と、とにかく、早く次の店に行くわよ!そ、そうね!このまんまじゃミーア、凍え死んじゃう!あ、フレイ、新しくできたカフェにいこうよ。すごくおいしいマフィンがあるんだって。カフェ?どこにできたのよ?えーっと。たしかねー、・・・・。 ゆっくりと、流れるとき。穏やかな冬の日。 その日から数週間たったある日。 ミーアが学校で、自分の教室の前を偶然通り過ぎた学年主席に一目惚れするのは、・・・・また、別のおはなし。
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